海に焦がれる碧い書斎

感想、考えたことの記録

コンビニという生の接点

 

長年わたしはある悩みを抱えていた。

いわゆる物語、とされる文をここ何年読みきれた記憶がない」ということを。

短編集ですら途中で飽きてしまうこともあり、自分は文を読むスキルがないのかとかなり落ち込んでいた。

 

しかしそんな中、タイトルやインタビューされた著者の雰囲気が気になってようやく手にしたその本はわたしに最後まで読みきるという勲章をくれたのだ。

 

さぁここからは感想に入ろう。

 

 

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

 

コンビニに長年務める主人公が店内外、過程内外を常に独特の感性かつ客観的な目線で描くお話。淡々と記される中、社会生活で求められるステータスや常識という針が読者に刺さり、主人公の恵子には同年代からプライベートのことで「あちら側」「こちら側」とジャッジする針が刺さる。残念ながらこれは現実にあるので、ページをめくるたびに「やめてくれ……」と心の中で叫んでしまう。特に恵子が白羽といるようになってからのコンビニ店員たちの変化はある種のホラーだった。

 

人は思った以上にズカズカと「当たり前」「常識」「この年のこの性別はこう生きるもの」を勝手に相手に説いて、それを優しさだと勘違いする。自分の考えにないものは否定してくるのに、いざ「当たり前」のことをするとこれまで否定してきたのをなかったようにして喜び、そしてヅケヅケと祝い、詳細を聞いてくる。

相手は自分と同じ定規を持っているかどうかで判断し、同じなら「仲間」とし、違えば「異物」とし「仲間」と群れながら「異物」を否定したり治そうとする。本当に聞く姿勢をとる人はほとんどいない。

いや書いてるだけで反吐が出る。泣きそうだ。

 

それでもさーっと読み進められたのは恵子が基本的に他者にも自分にも無関心だからこそ見える世界があるからだ。恐ろしい人間の性、当たり前とされてるもの、そういった事象をあくまで淡々として述べているところは、鳥肌が立つ。

 

オチ自体やそこまでの流れは弱いように感じた。しかし、恵子の「あらゆることに無関心」という社会生活ではかなりの痛手となる箇所をコンビニが繋ぎ、社会(生活)へと結ばせてくれるのだと思うと、「わたしにはこれしかない」というのはけっこう、羨ましく感じる。

恵子にとって社会生活との繋がりがコンビニであるとはっきりわかったのは、強いことだと思う。わたしの繋がりは、さてなんなのか。どこにあるのだろうか。

 

 

さらっと読み終えたことに読書への自信の芽が出たので、これからもきになる本や物語を見つけ次第どんどん読んでいこうと思う。