海に焦がれる碧い書斎

感想、考えたことの記録

BLACKSUNという思想

※この文はネタバレを多様に含んでいます。

 

まず本題に入る前に、「仮面ライダーBLACKSUN」を

見ることになったきっかけを話そう。

私はもともとヒーローものを大人になっても見ていて、

いわゆるニチアサを今でもリアルタイムで視聴するほどだ。

近年の動画配信ニーズ上昇もあってか、

東映公式ではこれまでの東映特撮作品をYouTubeであげるようになった。

基本的には期間限定配信で、1週間ごとに2話分といペースだ。

ネットの海を泳ぐと、どうも仮面ライダーの中でも

仮面ライダーBLACK」「仮面ライダーBLACK RX」への

熱い支持を目にすることがあった、そして偶然にも

この両作品を動画配信ですべて見たのである。

昭和初代をリスペクトし、ある種の神話であるBLACK。

スーツアクターたちの技術をいかんなく発揮したBLACK RX。

令和のこの時代に見ても、心に残る熱さを感じた名作たちであった。

そんなわけで「仮面ライダーBLACK SUN」のプロジェクトを聞いたとき、

「これは見なければ」と駆られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

さて、ここから「BLACK SUN」の話を使用。

結論から申し上げると、

現行戦隊のヒーローのお言葉を借りて……

 

「点数をつけるなら、65点だ!」

 

私としての言葉で言うなら

材料の多くは悪くないのだが、なんだか惜しい

これからその理由を細かく書いていこう。

 

 

 

 

「BLACK SUN」は「BLACK」の

リブート作品に当たる。アマゾンプライム限定配信という、覚悟を見せてきた。

最初のプロモーションで驚いたのはやはり

主人公の南光太郎と秋月信彦を担う役者たちが、

テレビでバリバリ活躍する方たちだということ。

いや、主人公どころか幹部などの重要な立ち位置の者たちの多くはそうだ。

東映特撮と言えば、その多くは

今後に期待の無名・若手・新人俳優が起用されることが多く

ベテランはだいたい主人公たちを見守る大人としてか

悪役としてのどちらかである。キャスティングには心躍った。

次に、公式が行ったクラウドファンディングから見える、

作品への愛・こだわりだろう。

なぜか支援者へのプレゼント名に

「クジラ怪人」「こうもり怪人」などの

幹部ではない怪人名が使われている。しかしBLACKを見ていれば

「あーその怪人使うかw」とにやにやするのである。

 

そんなこんなで「おや?」と思い始めたのが

配信日に近づくにつれ新たなキャストが発表された。

それは「若かりし頃の南光太郎役」など

おそらくメインとなる舞台とは異なる場での役者である。

そこでようやっと「現代と過去が交差するタイプの物語なのか」と

認識し始める。

 

 

 

そして、視聴を終えた後思わず

「点数をつけるなら、65点だ!

となった、いやなってしまった理由をいくつか

「良いところ」「うーんなところ」の順であげていこう

 

 

 

良いところ

1、TVではなかなやってくれないところをちゃんとやった。

荒地でバイクを走り回ったり、

子供を含めて被害に遭ってしまったり、

とにかく暴力。

 

 

2、怪人デザインが秀逸

とにかくカッコいい。

もととなった生き物や原作に忠実なつくりでヲタクにっこり。

今回でそのままとなるスズメ怪人こと俊介も

スズメそのままの頭で造形のクオリティの高さに感動。

ヒーローとして変身した後も、特にシャドームーンは

足の例のパーツが残ってて感動した。

ガシャンガシャン言ってもよかったんやで

 

 

3、過去作へのリスペクト

設定そのものは、かなりBLACKを意識している。

原作にもいた怪人や主要メンバーは基本的に、原作と似た立ち位置である。

特に制作陣のなかにクジラ怪人とビルゲニア好きすぎる人がいたのは見て取れた。

クジラ怪人が光太郎を助けた例のシーンはほぼそのままだし

ビルゲニアは怪人態になると、例の顔だけ出てるあれそのままである。

これはこれでちょっと問題……いやなんでもない

特にカニ怪人がやられてしまったとき、ただ消えるのではなく

泡となってとけるように消滅したのは

昭和の仮面ライダーにおける鉄板の手法である。

CG多用でなくあえてその手間を選んだことにかなり尊敬している。

 

3、ヒロインにちゃんと意味を持たせた

BLACKにおいては、ただ光太郎と信彦の帰りを待つ二人が

泣いたり笑ったりするだけであったが、

今回のヒロイン和泉葵はごりっごりの行動派である。

しょっぱなから某社会情勢を意識した少女としていたかと思えば、

ひょんなことからカマキリ怪人になったり

それで怪人としてのスペックが高いゆえに

終盤では活動家として旗を揚げる意思を見せたわけだけど

教えている対象者みんなが子どもなのは最大の皮肉であるな。

 

 

うーんなところ

1、そのヒロインにもうちょっと「人間味」を持たせてほしかった

そのヒロインなんですが、とにかくつらい目に遭うので

「大きな声で泣く」芝居の印象が強すぎて、彼女の中にある葛藤、つまり

人間味をもっと出してもよかったのでは。食事のシーンはあったけど

たとえばふとよった店で何を買おうか悩んだり、

クラスメイトがいたのだからその人たちと雑談したり、

それこそ小さい子を助けたり(東映特撮的には高いポイント)

「ああこの子も人間なんだ」って思わせる描写がもっと欲しかった。

葛藤は何も「大きな声で泣く」だけではないと思うのよ。

 

 

2、描いてほしいところは端折って、別に要らないところはそのまんま

過去編のもろもろを理解するのに時間がかかった。

結局ゆかりは本当は何を思っていたのか

どうして信彦と光太郎は考えが異なるようになっていったのか。

そこがもっと欲しかった。

代わりに、移動するシーンはカットすれば

「ああ、誰々はどこそこに移動したのか」で済むのでそれでよいのでは。

ただ、俊介と葵が長回しで歩いて葛藤するシーンは個人的にヒットした。

 

 

3、音楽のパンチが弱い。

テレレレがどうこうというよりも、

BLACKとRXの主題歌が傑作すぎたというのもあるかもしれない。

BLACKもRXもオープニングでは

「本来流れ的に考えたら使わないであろう音色」をあえて冒頭に出すという

繊細&テクニカルなことをすることで聞く人の耳に印象付ける構成。

半音の使い方がうますぎる。

BLACK SUNでは流れ的には忠実な構成なメロディではあるが、

あまりにもテレレレを多用しすぎていて

もう少し場面ごとの様々な音楽を用意してほしかったとは思う。

何だったら主題歌担当者による挿入歌があってもよかった。

 

 

 

そして個人的に引っかかったのはこの二つ

  • 何故最初のプロモーションで過去と現在が混ざることを言わなかったのか
  • 何故「怪人」という言葉を人間も怪人も多用するのか

ということである。

順を追って説明しよう

 

 

何故最初のプロモーションで過去と現在が混ざることを言わなかったのか

 

私があまり情報を終えていなかったかもしれないが、

主演である2人が少しずつ表で話すようになった時点で

過去編があることは言わなかったような気がする。(そうじゃなかったらごめん)

なぜ私がこれまでに過去編のことにこだわるかというと、

過去ありなのかどうかで「視聴するリズム」が変わるからだ。

現代と過去の比率が7:3なのか、9:1なので

印象が変わるのは分かっていただけるであろう。

しかし、実際は5:5となっておりその割には

役者陣の知名度というか宣伝となりそうなのは現代に集中していた。

もちろん、過去編の役者陣も素晴らしい芝居をしていたのは間違いないし

役者そのものを否定するつもりは毛頭ないが

それくらいの比率ならもう少しキャスティングを考えた方がよいのでは。

大事なことが詰まっている過去編の印象が薄くなってしまう。

 

 

何故「怪人」という言葉を人間も怪人も多用するのか

 

少し専門的な話になるが、

「用語・名前」というものは

いくつかあるものの区別をつけるため、だけでなく

多数の中の少数派に名前を付けるためということもある。

前者の例でいうなら「色」、後者の例でいうなら「最近知られたもの、珍しい職業」などである

 

これが、差別問題となるとどうなるだろうか。

まず、否定的な・暴力的な意味合いの「言葉」が生まれる。

そこに声を上げ抗うか、その言葉を使う頻度が減ることで

言葉の意味が変わったり、あるいは新しい言葉に置き換えられたりする。

私はこの日本という国にいて「差別はあるなあ」と思っている立場なのだが、

たとえば抗いとして「その言葉を使うのはやめよう」とか

あえてその専門的な言い方を避けるという姿勢を見る。

というのもその差別的に使われる言葉を簡単に使うと、

いわゆる「相互理解」に遠ざかってしまうからだ。

 

BLACK SUNはどうだろう。

人間側も怪人側も「怪人」という言葉を使っている。

私はここで思った。

怪人は「怪人」と言われるのが嫌でないのか?それならほかの言葉に置き換えようとしないのか?

俊介などが「怪人も人間だよ」と言っていたが

他の怪人たちがどう思っていたのかが描かれなかったのが正直残念である。

言葉一つとっても、その意思や考えは人それぞれだ。

あれだけのキャラがいて、差別問題を扱うならもっと深堀してもよかったのでは。

 

 

 

 

 

 

て思ったけどそこらへんは終盤でようやっとわかり、

クジラ怪人が例の方法でBLACKSUNを生き返らせたり

(特に説明もない。原作知らないとわからんやつ)

最終回でまさかのBLACKのOPガチ再現があったりと

クライマックスで突如BLACKオリジン要素をぶっこんで来たので

「なんやねんwwおいなんやねんww」と混乱してしまった。

 

 

 

ええということで、結論としては。

色々良いところもあるけれど、

そのテーマ・モチーフ扱うなら

ああいう場面をちゃんと考えて表現してほしかったな。

 

的な意味で惜しい!の65点でした。